サロベツ原野のかたわらにある稚咲内集落へ行く

2020年5月作成、2021年3月加筆修正

北海道は道北地方の日本海側に広がるサロベツ原野。人の手が入っていない自然が広がる一帯だが、そのかたわらの海岸近くに「稚咲内(わかさかない)」という集落がある。人里離れたところにぽつんとたたずむその集落がどんなところなのか、夏のある日に訪問した。

稚咲内集落の位置(地図出典:国土地理院

7時18分、豊富駅で、稚内方面からの特急列車を降りる。ほかにもう一人が降りる。

町の中心駅だが無人駅で、駅員の姿はない。駅舎にはカフェや観光案内所が併設されているが、さすがにこの時間にはまだ営業を始めていない。

稚咲内方面へのバス(沿岸バス・サロベツ線)はこの駅から、夏場は3往復(冬場は2往復)出ている。1本目の発車時刻は8時30分。まだ少し時間があるので、駅の近くをぶらぶらして時間をつぶす。

豊富駅

駅に戻ると、稚咲内方面のバスが駅前に停まっていた。なぜか特急バス用の車両で、前面には「特急はぼろ号」と掲示されている。

さっそく乗車する。4列シートの大型バスの車内は、ほかに乗客はおらず、がらんとしている。

稚咲内行きのバス

8時30分、バスは豊富駅を出発。町の中心街を抜け、道道444号線を走る。畑の多い地帯を抜け、サロベツ原野の中へ。一面の草原が左右に広がる。道中ではトラックとよくすれ違う。

原野を抜けると、再び畑の多い地帯へ。民家などの建物もぽつぽつと建っている。途中、いくつかの停留所を通り過ぎるが、乗ってくる人はいない。

そのあと、道路は林の中に入っていく。「稚咲内砂丘林」と呼ばれるトドマツなどから構成される林だ。

そして、林を抜けると、すぐに家々の集まりが見えてくる。ここが稚咲内集落だ。集落内には「稚咲内第一」という停留所があるが、このバスはその次の海岸近くにある「稚咲内第二」というところが終点。いったん集落を通り過ぎて、終点まで乗車する。

8時49分、終点の稚咲内第二停留所に到着。特急バス用の車両で車内に運賃表示器はなく、運転手から運賃を告げられてその額を払って降車する。

稚咲内第2停留所で降車
稚咲内第2停留所の標柱

稚咲内第二停留所は集落より数百メートル西側、道道444号線と道道106号線(オロロンライン)の交差点付近に位置している。バスは、交差点を右に曲がって、どこかへ走り去っていく。およそ40分後にこの停留所に折り返し便が設定されており、その時間までどこかで待機するのだろう。

第二停留所付近を散策する。停留所から海沿いへ出ると漁港がある。見える範囲に人の姿はないが、廃れている様子はなく、現役の漁港のようだ。

オロロンラインに沿って南方を眺めてみれば、漁港から200メートルほど離れたところに、民家らしき建物が数軒建っている。人が常住している建物なのか、あるいは番屋や物置の類なのか、どちらかは分からない。

稚咲内漁港
漁港から交差点へつながる道
漁港近くの建物

バスで走ってきた道を戻り、稚咲内第一停留所の方へ。草地に挟まれた道路を、500メートルほど歩く。

稚咲内第二停留所から第一停留所へ(道道444号線)

砂丘林の手前、南北に集落が広がっている。ざっと辺りを見渡すと、民家が20軒ほど。2015年の国勢調査によると、大字としての「稚咲内」には36世帯86人が住んでいるそうだ。

稚咲内集落

道道444号線をはずれ、集落内の道を南の方へ。

左手に白い鳥居が見えてくる。「稚咲内神社」という神社で、夏にはここで祭が行われるそうだ。

稚咲内集落の南側の道
稚咲内神社の鳥居

さらに南へ歩いていくと、学校の校舎が見えてくる。門柱の表札には「豊富町立稚咲内小学校」と書かれている。すでに閉校してしまったそうで、たしかに、校庭や校舎には、子供たちの活動している気配がない。一方で、校舎は公民館のように再利用されているらしく、放置され荒れ果てているという感じでもない。

稚咲内小学校

集落の中に商店は見当たらず、飲料の自動販売機が2台ほどあるのみ。日常的な買物は、車で15分ほどの豊富町の中心地区に頼っているのだろう。

時刻は9時20分ごろ、集落内はほとんど人通りがなく、ここまで見かけた住民は一人だけだ。

稚咲内集落の北側の道

そろそろ帰りのバスが来る時間なので、稚咲内第一停留所へ戻る。しばらくして、豊富駅行きのバスが海岸の方からやって来る。もちろん、車両は先ほどと同じ「はぼろ号」だ。

豊富駅行きのバス
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